楽天市場:【送料無料ライン統一】の撤回はなぜ起こったかを推測してみた

楽天市場:【送料無料ライン統一】の撤回はなぜ起こったかを推測してみた

楽天市場【送料無料ライン統一】の撤回はなぜ起こったかを推測してみた

とうとう撤回しましたね。
『一部店舗の反発』などと言われていましたが、実際はかなりの店舗の反発があり退店希望も楽天の想定以上に多くあったのだと思われます。
楽手市場内の店舗向け掲示板では優良店舗の撤退についていくつもアナウンスされていました。

そして、以前の記事で記載した通り【Yahoo!ショッピングへの流入】増加につながり「Amazonに勝つ前にYahoo!の追随が怖い」状態が生まれてきていました。

今回の撤回は「新型コロナウィルスのせい」らしいですが、本音は3つ巴になる事を恐れたのだと解釈しています。
多分、『御上が怖かった』わけでも『店舗の意見を汲んでくれた』わけでもないでしょう。

再度整理:送料無料ライン統一の何が問題だったか

視点を変えながら考察していきたいと思います。

店舗側から見た問題

  1. 全ての商品に対して一律で送料無料にすることに無理が生じる
  2. 3,980円(税別:3,618円)の中から送料を捻出し赤字販売にならないためには、利益率39%以上が必要である ※この粗利率で利益が1円とかになる
  3. 商品代金に送料を含ませた場合、Yahoo!ショッピングなどの価格と大きな差異が出てしまい、全体として競争力が落ちる
  4. 最終利益が落ちるため、広告などに回すコストが捻出できず他事業の費用を回すことになる

このような問題点から店舗側では下記選択を準備していた店舗が多数ありました。

  • 楽天市場からの縮小/撤退
  • 配送可能地域の限定
  • 低利益/低価格商品の撤収
  • 商品売価の値上げ ※1商品あたりの加算額500円 /商品個別加算乗数 元売価×1.2 程度が多かったようです。

顧客側から見た問題点

  1. 購入した商品が【配送不可地域】でないか調べる必要が生じる
  2. 価格調査が楽天市場で完結せず、Google経由で様々なコスト比較を行う手間の発生
  3. 欲しい商品が見つからない可能性の拡大

顧客側から見るとネット通販は価格比較しやすい特徴があり『安い商品を探しやすい』メリットがあります。
しかし、現在市場で起こっている事はメーカーからの【ネット販売禁止指示】や【通販専用OEM】、楽天が是正したかったであろう『送料と売価のバランス変更による【総額の見えない化】』などです。つまりは、メーカー/店舗は単純に比較しにくい市場にしようと動いているわけです。
【ネットからの商品撤退】も選択肢の1つに入っている為、『比較の容易性』を得ながら『商品の多様性』が狭まる可能性が大いにあります。

楽天市場から見た問題点

  1. 楽天市場撤退後、Yahoo!ショッピング出店を検討する店舗の増加に伴う【2強】から【3つ巴】へ移行の懸念
  2. 売上高の高い優良店舗撤退に伴う売上減少
  3. 店舗/商品の減少に伴う楽天市場の魅力低下

エンドユーザーは「『送料が計算しやすくわかりやすい』『ほしい商品がある』この2つのメリットを天秤にかけどちらに軍配が上がるか」がポイントでした。
現状では国内経済は良いとは言えず、欲しい商品以外は購入を渋るでしょう。
そして、このほしい商品が他のモールや店舗にあれば楽天市場で購入するメリットは「楽天ポイントがあるから」という理由だけになります。

そこに来て「楽天市場の商品は他のモールより総じて高い」「理由は商品代金に送料が含まれているからだ」となれば、まとめ買いをしにくい環境が生まれます。
これは客単価の減少を意味しますので、送料を含めた総額の売上高はきっと縮小していたことでしょう。

法律的な視点からの問題

  1. 楽天市場に『独占禁止法 優越的地位の濫用』にあたる恐れ
  2. 商品代金を送料に加算した店舗側に『景品表示法 不当表示防止法違反の疑い』が発生
  3. 楽天市場に店舗に対する『不法行為の強要』の疑いが発生 (送料を含めた額での出品額調整に対して)

今回の【3,980円送料無料】に対して店舗側から出た不満の1つに「店舗も法律違反になる。そんな違反を強要するのか」という楽天市場に対する不信感がありました。
私も消費者庁に尋ねてみましたが以下の回答がありました。

  • 商品代金と送料は分けて表示するように
  • 商品は商品、送料は送料として価格がしっかりわかる状態が健全であり、合算して見えなくすることは宜しくない

しかしながら、楽天市場から店舗へのアナウンスでは「売価に送料を合算して対応して下さい。ただし自己判断で」との内容でした。
店舗から「送料無料を強要しておいて『自己判断で』とはどういう事だ」との意見が出たのは言うまでもありません。

解りやすい総額の提示、どうすれば最善だったのか

では、楽天市場が主張していた【送料無料ラインの統一】以外に送料を含めた価格が簡単に表示できる方法はなかったのでしょうか。

正確性を求める場合は残念ながら現行のシステムの中では「なかった」と断言できます。
理由は2つです。

  1. 発送サイズによる送料の相違を鑑みての価格反映が出来ない。※80サイズと120サイズをまとめ買い頂いた時。120サイズで発送できるのか160サイズ必要なのか判断できない。
  2. 注文者と配送先が異なる場合、提示された送料込み価格と実際の価格の差異を埋める事が出来ない。

しかし、概算の案内であれば可能です。
ログインした時点で顧客の登録地域は把握できるのですから、この地域への配送費用を抽出して合算し表示すればよいだけです。

そう、たったこれだけなんです。

なぜ大きな仕様変更をしてきた楽天市場が『たったこれだけ』の仕様変更をするという発想に至らなかったのか。
多分、発送に至らなかったのではなく【送料無料】という言葉が欲しかったからなのだと思います。

わかりきった理屈を押しのけてまで楽天市場が【送料無料ライン統一】をしたかった理由

私は楽天の狙いは単品購入による購入頻度の上昇とそれに伴う購買履歴の収集だったのだと考えています。

まとめ買いされてしまうと「だれがいつ何を欲したか」のデータはぼやけます。
送料が○○円というファクターが混ざってしまうと更に選択の理由がぼやけます。
購買データそのものに意味を持たせるためには、データは単純である方が良いのです。

今注目されている情報の中に『人々の暮らしぶりのわかるデータ』があります。
普段の日用品の購買データが溜まれば、それこそ様々な所で利用できる黄金の泉でありデータ錬金術に必要不可欠なパーツとなり得ます。

購買情報をAIの学習データとして利用しやすいように形成するために不要な要素を排除したい

私は、これが楽天側の本音であったと思います。
決して「エンドユーザーのため」でも「店舗のため」でも「楽天市場そのもののため」でもなかったとの推測です。

なぜ今になって撤回したのか

まぁ正確には撤回ではなくて「しばらく凍結」ですが、三木谷さんが「断固として実行する」と言い切った施策を捻じ曲げたわけですから、相応の理由があるはずです。
私の見解で申し訳ないですが『想定以上に多くの店舗から退店希望が上がった』事により「購買データそのものの数と信憑性が薄れる懸念」が生じたのではないでしょうか。

IT大手でもあるYahoo!は楽天よりもデータ取集分析能力が優れています。
これは、EC関連のプログラムを少しでも作った事のある人ならよくわかる事でしょう。
ゴチャゴチャで理解しがたい楽天市場のAPIやSQLの仕様と違い、Yahoo!ショッピングはしっかりと整理整頓されていて非常に作りやすいです。
そんな整理整頓されたプログラムですから、データマイニングも得意であると十分に推測できます。

3つ巴となればYahooにもそれなりの購買データが溜まります。
Amazonはデータを外に出しませんから、2強であれば国内の日用品購買データの主たる販売主は楽天市場だけとなります。
3強となると…楽天の立場はYahoo!の次となるでしょう。

楽天が欲しているものは3つある

私は楽天が欲しがっているものは3つあると考えています。

  1. 日用品の購買データ
  2. 生活圏(行動範囲)のデータ
  3. 趣味嗜好に関するデータ

このうちの生活圏(行動範囲)は携帯電話事業が補完します。
日用品購買データは楽天市場の購入履歴が、趣味嗜好については楽天市場やツールによる検索履歴がそれぞれ補います。

この3つのデータがそろえば、かなり幅広い範囲を制御管理できますよね。
楽天はAmazonに多くを取られているため「日用品の購買データに信憑性が不足している」と考えているのでしょう。

だからこそ、実行したかったし撤回したのだと思います。

楽天市場の今後の予測

欲しいのは日用品の購買データです。
一律3,980円送料無料にできなかったとなれば、それ相応の形に持ち込むはずです。

具体的には、楽天24の拡張と検索優位性の確保
楽天24の中ではAmazonに対抗して1500円以上送料無料なんてこともするかもしれません。
最終的にここで利益取らなくても良いと考えれば十分実行しうると思っています。

店舗に対する風当たりは「生かさず殺さず」といった対応になるのではないでしょうか。
Yahoo!に移られるのはイヤだけど、2店舗出している状態なら許容範囲だと考えているでしょう。
なぜなら、Yahoo!ショッピングは非常に荒れた売り場だからです。
楽天市場は監視が強いため出来ませんが、Yahoo!では商品10円送料10万円なんて設定をしても違反ではなく特に咎められません。

事実、そんな店舗が多数あることからYahoo!ショッピングを毛嫌いする方も数多くいますし、Yahooショッピングの価格を取得するシステムを組み、価格自動調整を仕掛けた際に最大のネックとなったのがYahoo!ショッピングの販売価格でした。

だってねぇ、Amazon/楽天よりも2割以上安いあり得ない価格(製造原価を知っているので)で出品している店舗があって、その店舗を確認したら送料1500円、商品1個づつに1500円かかりますって書いてあるんですよ。売価だけ見て調整すると痛い目に合うので自動化を断念したんです。

楽天が避けたいことは優良店舗が楽天だけにいない状態

その為の対策が今回の【前言撤回】騒動なのだと思っています。

われわれ出店者はどうすればよいか

売上内の1店舗比率を低くし複数店舗による運営管理がより注視されることになるでしょう。

そして【自店舗の強化】。

人の土地で商売させてもらっている以上、自分たちの意見だけが通るなんて事とはあり得ないわけですからね。
自分の領土をしっかりと反映させることが必要になってくると思います。
その為にはGoogle検索対策の知識と仕組みが必要となるでしょう。

まとめ

今回は撤回という事態になりましたが、楽天市場は今後もあの手この手でDataマイニングしやすい環境構築を行ってくると思います。
これがわれわれ店舗にも使える情報であればよいのですが、楽天市場は抱え込んでコンサルや販売に利用するはずです。
自前の店舗を強化していれば、こういった楽天が欲しいデータを自前で取得する事も出来ます。

多店舗化と自店舗強化。

今後のEC事業の必須キーワードだと思います。