自作の見積もりツールが「赤字」、税理士の試算は「黒字」だった — 簡易課税で消費税を二重に引いていた話

はじめに

一人で法人を経営していると、決算の前に「今期はどのくらい利益が出そうか」「税金はいくらになりそうか」を自分で見積もりたくなります。私は自分用の小さなツールを作って、売上・経費・人件費から利益と税額を計算していました。

ある年の決算前、そのツールの見積もりは赤字でした。ところが税理士の試算は黒字です。数字の差は小さくありませんでした。

調べてみると、原因は単純でした。消費税を二回引いていたのです。同じ考え方で見積もっている人は、意外と多いのではないかと思い、書き残しておきます。

なお、この記事は簡易課税・サービス業(第5種、みなし仕入率50%)を前提にした話です。個別の判断は、必ず税理士に確認してください。

背景

ツールでは、利益を「税抜」で計算していました。売上も経費も消費税込みの金額で入ってくるので、それを 1.1 で割って税抜にし、税抜の利益を出していたのです。

そのうえで、年間の消費税の納付見込額を計算し、利益から差し引いていました。「利益から税金を引く」のは自然な発想に見えます。私もそこに疑問を持っていませんでした。

起きていた課題

架空の数字で説明します。

  • 売上:税込 1,100万円(うち消費税 100万円)
  • 経費:税込 110万円(うち消費税 10万円)
  • 人件費:600万円(消費税はかかりません)

簡易課税・第5種では、納める消費税は売上の消費税の半分です。

> 納付額 = 売上の消費税 100万円 × 50% = 50万円

ツールの計算はこうでした。

> 税抜の利益 = 1,000万 − 100万 − 600万 = 300万円 > そこから納付額を引いて = 300万 − 50万 = 250万円

一方、実際のお金の出入りで数えると、こうなります。

> 入ってきたお金 1,100万 − 出ていったお金(110万 + 600万 + 納付 50万)= 340万円

90万円も違います。

検討したこと

最初は「経費で払った消費税を引き忘れているのでは」と考えました。ところが、簡易課税ではそもそも経費で払った消費税を納付額から差し引きません。納付額は売上の消費税だけで決まります。

では、90万円はどこから来たのか。整理すると、こういうことでした。

  • 利益を税抜にした時点で、売上の消費税 100万円は利益から外れている
  • 経費の消費税 10万円も、同じく利益から外れている
  • つまり税抜の利益は、「消費税を全部抜いた後」の数字になっている
  • そこから納付額 50万円をさらに引くと、消費税を 二回 引いたことになる

正しくは、税抜の利益に「抜いた分」を戻してから、納付額を引きます。

> 税抜の利益 300万 > + 売上の消費税 100万 > − 納付額 50万     ← 売上の消費税のうち、納めなくてよい 50万は会社に残る > − 経費で払った消費税 10万 ← 簡易課税では差し引けないので、コストのまま > = 340万円

よく「益税」と呼ばれるのは、この「納めなくてよい 50万円」の部分です。一方で、経費で払った消費税 10万円は取り戻せません。簡易課税は、この2つの差し引きで得をするか損をするかが決まる仕組みだ、と腹落ちしました。

実際に行った対応

ツールの計算を、税込のお金の動きを正とする形に改めました。

あわせて、表示の仕方も見直しました。会計には「税込経理」と「税抜経理」という2つの記帳方法があります。

  • 税込経理:売上も経費も税込のまま記録し、納めた消費税は「租税公課」という経費にする
  • 税抜経理:消費税を分けて記録し、納付額との差額は「雑収入」という収入にする

上の例では、どちらで記帳しても税引前の利益は 340万円で同じになります(消費税を期末に未払計上する場合)。違うのは見せ方だけです。

なお、税込経理で「消費税は実際に納めた期の経費にする」方法を取っている場合は、その期に経費になるのは前期分などになり、その期の利益はずれます。見積もりと試算を比べるときは、どちらの方法かも確認しておくと安心です。

税理士の事務所がどちらの方式を使っているかで、試算表の並びは変わります。そこでツールにも経理方式の設定を付けて、損益計算書をどちらの並びでも表示できるようにしました。こうしておくと、税理士の試算表と1行ずつ見比べられます。

得られた学び

  • 「税抜で計算した利益から税金を引く」は、消費税に限っては危ない。 税抜にした時点で、消費税はもう利益から抜けている
  • 簡易課税の得と損は、別々の場所にある。 売上の消費税のうち納めなくてよい分は会社に残り、経費で払った消費税はコストとして残る
  • 自分の見積もりと税理士の試算が食い違ったら、計算式より先に「同じ並びで比べられているか」を疑う。 経理方式が違うだけで、行の名前も金額も変わって見える

まとめ

自作の見積もりは、税理士に渡す数字ではありません。それでも、自分の判断(役員報酬をいくらにするか、設備投資をするか)の材料になります。土台の式がずれていると、判断もずれます。

今回は、税理士の試算と見比べたことで間違いに気づけました。見積もりツールを使っている方は、一度「消費税を二回引いていないか」を確かめてみてください。

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